昨日の日記で現実が漫画を超えてしまった例を挙げましたが、
現実とまさにシンクロしたことにより、傑作となった作品があります。
それは(やっぱりここでも声を上げますが)「俺たちのフィールド」です。
ちょうど96年から97年、「ドーハの悲劇」の記憶も覚めやらぬ状態で
現実の日本代表はフランスW杯アジア予選に臨みました。
02年の大会開催は決まっており、自動的に出場権を得られる立場。
それは逆に言えば、このフランス大会に出られなければ、
漫画のセリフで言うところの「金で出場権を買った」と罵られても
おかしくない恥をさらす危険との隣り合わせでした。
スポーツに関して、強い意識、ナショナリズムを持つ自分にとっては
このことはすごい恐怖であり、もし予選突破できなければ
もう海外に行けないと思っていたほどでした。
多くのサッカーファンがアメリカにあと16秒まで近づいた代表の力と
Jリーグブームの高揚で今度こそ、という期待を抱いていました。
しかしその一方で大きな不安を抱えていたと思います。
そして実際の代表も優勝を期待されたアジアカップでクウェートにまさかの完敗。
そして予選前の最後の公式大会であるキングスカップでタイに敗れる
不安な状況となりました。
そんな時期に連載されていた漫画が「俺たちのフィールド」です。
もちろん主人公・和也をはじめ、登場人物の目指す目標は
日本代表のワールドカップ出場であり、
それは「開催国初出場」という不名誉な烙印から逃れることでありました。
そして現実のワールドカップ予選とほぼ同時期、いやほぼ同時に
漫画の中で和也たちは予選を戦います。
途中、予選のレギュレーションの変更があり、
最終的には実際の予選と劇中の予選の方式が違くなりますが、
実際にはそんなことが気にならなくなるほど
実際の代表の苦しみと和也たちの苦しみが本当にシンクロしていました。
あの時、一人のサッカーファン、そして日本人として
「もしワールドカップに行けなかったら…」、とても恐怖でした。
そして毎週サンデーを読むたびに見る光景は、
和也たちが苦しむ姿でありましたが、それでも彼らは強く戦っていました。
読むたびに、
「もしワールドカップに行けなかったら、どうなるんだろう、この漫画は」
と(余計な)心配もしていました。
なによりこれを描いていた作者である村枝先生の苦しみは
一体どれだけのものだったのか…? とても想像できるものではありません。
現実で予選において、国立での悪夢のような逆転負けを喫した韓国戦、
自力突破の可能性をなくしたUAE戦、
恐怖と絶望の中にいましたが、そんなときでも和也は、伊武は戦っていました。
そして訪れた(現実での)ジョホールバルでの歓喜…、劇中での和也たちの叫び
「俺たちのフィールド」はいつ、誰が読んでも傑作だと思いますが、
でもあのとき、あの瞬間、あのスリル、いや恐怖と言っても良いあの感覚。
あの状況で読んで感じた「面白さ」に敵うものはないと思います。
あのとき確かに僕らは彼らと同じ劇中にいました。
そしてその思いのままに自分はフランスに行きました。
実際に彼らの姿を観たかったのです。
ただ残念なことはそこにいるべきだった伊武が、
いや現実ではカズですが、劇中と違いそこにいなかったことです…。
ちなみにフランスに入る前に、兄がいるイギリスに寄ったんですが、
どうしても「俺フィー」の続きが気になる自分は現地で4倍の値段のする
サンデーを買っていました(水曜発売の号が金曜には手に入ります)。
どうしても我慢できなかったんですね。
それだけの想いを持つだけの作品に出会えたこと、
しかもあの時期に出会えた幸運を本当に感謝します。
最後に裏話を。
以前に村枝先生に取材した際に伺ったのですが、
本当は「俺たちのフィールド」はワールドカップ出場決定のエピソードで
終了の予定だったそうです。
それが延びた理由は、そう漫画を読んでいる方ならおわかりかとと思いますが、
和也の最大のライバルであるダミアンの国・アルゼンチンが
日本のワールドカップの初戦になったからなんですね。
この抽選を生で観ていた先生は食べていたモツ煮込みを吹き出し、
その場で「RED」の担当の方に連載開始の延期をお願いしたそうです。
これもすごいシンクロですね。
劇中では和也たち日本代表はアルゼンチンに勝ちます。
ご存知の通り、現実では1-0でありながら、その1点に大きな差がある負けでした。
いつか、この劇中の試合結果に現実が追いつくことを願っています。
今日も長くなりました。
それではまた。
読書履歴
●「でかポメ」(橘紫夕/イースト・プレス)
●「蒼のサンクトゥス」2巻~5巻(やまむらはじめ/集英社)
というわけでやまむらはじめ先生まつり、まだまだ開催中です。